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#暮らす

火と服と音楽と

(Text=岩村理奈 Photo=写風人)

雪化粧の立山連峰を前方に望みながら、なだらかな丘を上がっていく。
雄大な山々と目線が重なる頃、ひときわ目を引く建物が姿を現した。
煙突が立ち上がり、屋久島地杉の無垢材を使った外壁が風合いのあるグレーに変化している。
数年後には、木が自ら出す油分によってさらに光沢が増すという。
この店のストアカードにも、シルバーメタリックの色合いが使われている。
家への愛着と自然への敬意が感じられる。

ここは富山県にあるアパレルショップ「EMA」。
オーナーの住居を兼ねた建物には、自由設計型の薪ストーブHOXTER ECKA 67/45/51hが燃える。
やわらかな光が差し込む白い空間に、こだわり抜かれた洋服やアクセサリーが並び、
ストーブ横の棚に収蔵されたレコードコレクションが、独自の世界観を作り出している。

EMAの店内。洋服に加え、希少なアート作品やポスター、器なども扱う。

服屋と薪ストーブ

「服屋にストーブがあるのがいいなと思って」

20年間、富山市内で営んできた店を、自然豊かなこの地へ移して2年目。
コロナ禍を機に営業スタイルを見直し、現在はアポイント制としている。
詳しい住所は非公開。よって予約をした人だけが辿り着ける、隠れ家のようなショップだ。

「普段忙しくされている方が多いので、静かな環境でゆっくり服を選んでほしいんです」
接客を担当するのは、笑顔が華やかで明るく気さくな奥様。
コーヒーが湯気を上げ、アナログレコードの心地よい音楽と、薪のはぜるパチパチという音が響く中、
お客さんはおしゃべりを楽しみながら、ゆっくりと過ごしていく。
富山市内から、ちょっとした小旅行のような気分で訪ねる人も多いという。

人は歳を重ねるごとに魅力を増していく。
「この店も、そんなお客様と一緒に歳を重ねています」
大学生だったお客さんが母親になり、その娘さんも訪れるようになった。
「次の世代へ繋いでいく感じは、薪ストーブにも似ているかもしれませんね」

ゆったりとしたソファが迎えるリビングスペース。

炎の見え方が計算された空間

ストーブはご主人担当。火入れを見せてもらった。
「ストーブをつけてもらったトリコノートさんから教えてもらった焚き方です」
まずは薪を縦にして炉内の奥に立てかけ、その上に焚き付けと着火剤を置き、マッチで火を灯す。
上から徐々に燃え広がり、やがてダイナミックな炎が立ち上がっていく。
ガラスも曇りにくく、このストーブにあった合理的な焚き方だ。

お気に入りの場所は、ストーブ横のソファー。
二面のコーナーガラスを選んだことで、店舗スペースからも、プライベートリビングからも炎が目に入る設計になっている。
ガラス面から伝わる輻射熱に加え、ストーブの囲い内に蓄えられた熱はガラリを通して循環し、家全体をやわらかく暖める。

プライベートリビングからの眺め。

白銀の景色の中で

1シーズン目で大雪という山の洗礼を受け、営業できない日もあった。
山の天気は変わりやすい。 降っては積もり、除雪してもまた白く染まる。
それでもふと青空が広がり、太陽の光に照らされた景色はどこまでも白銀の世界で、心までスッとする。

再開後には、まるでスキー場のような積雪の中、足を運んでくれたお客さんの温かさに救われた。
「でもね、軒まで積もるような大雪の中でも、店内は雪山ロッジのように薪ストーブで暖かくて最高なんです。今度は焼き芋にも挑戦してみようかな。」

春は山に咲く桜、野に咲く花々、 夏は一面の緑と蝉の声が、子供の頃の夏休みを思い出させてくれる。
秋は街より少し早くトンボが飛び、虫の声で季節の移ろいを感じ、冬は立山連峰の積雪でまた新しい季節の始まりを知る。

「本当に、いい場所に来たなと思っています」

「散歩コースです」
ご主人の案内で小道をのんびり歩くと、眼下に富山湾が見えてきた。
その向こうには能登半の悠々とした景色があった。
(了)