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薪風呂楽しいの会

自然の中で湯船につかる時、人生は平和である。
何気なく使っている「湯船」の語源は、江戸時代に実在した移動式の水上銭湯だったとか。
日本人のDNAには「風呂=舟」が刷り込まれているのかもしれない。
舞台は「りたまキャンプフォレスト」。船のような薪風呂ボヘメンとの出会いがその始まりにある場所。
駒ヶ根の森に身を置き、火を焚き、湯を沸かす。 男4人の、風呂と焚き火談義の時間が始まる。

(Photo=写風人 Text=岩村理奈)

リラックスを持ち出そう

薪風呂Bohemen(ボヘメン)は、ラップランドに暮らすサーミ族の文化をルーツに生まれたアウトドアバス。縦に長いゆったりしたサイズで、足を伸ばしながら入浴できる。アルミ製のため軽量。軽トラックにも積める。
この“どこへでも運べる薪風呂”を積み込み、向かったのは同じ駒ヶ根市内の「りたまキャンプフォレスト」。ここにはボヘメンが3台導入されている。

軽トラにのせて出発!天気も良好、薪風呂日和。

中央アルプスから流れる清流を見下ろす森の中にある「りたま」は、焚き火とサウナを愛する仲間が集まって作ったキャンプ場。1日8組限定のゆとりあるサイトが広がり、薪風呂を使った体験プランも人気だ。
りたまのコアメンバー3人が迎えてくれる。ここにファイヤーサイドのサウナ隊長・白澤が加わって、4台の薪風呂が一堂に介す。「たくさん並んだ姿が見たい!」という純粋な(単純な)理由から…。

標高741メートルの森の中。鳥の声と川のせせらぎが聞こえる広々としたフィールド。

風呂焚きスタート!

薪風呂ボヘメンは、湯船の中にストーブを内蔵する、ロケットストーブ型水中ボイラー仕様。水中で薪を燃やし、その熱をダイレクトに水へ伝えて湯を沸かす仕組みだ。
オープン当初から数多くの風呂焚きをこなしてきたキャンプ場のメンバーは、すでに風呂焚きのプロ。 それぞれが独自のメソッドを持っている。

焚き付けのスタイルにも個性が表れた。
髙本さんは、使用済みの割り箸を焚き付けに再利用するエコ派。着火剤はファイヤースターターをセレクト。
龍磨さんも同じく割り箸派だが、四角いコロ状の薪を組み合わせている。
まるもさんは、ナイフでほぐした麻ひもを火口に、森で集めた小枝を焚き付けに使うワイルド派。
一方、白澤氏は、安定して火が続くドラゴン着火剤を投入。広葉樹と針葉樹を組み合わせ、確実に火を大きくしていく。

水温19度からスタート。2時間ほどでいい湯加減になる予定だ。
キンドリングクラッカーで薪を割る音が響き、煙突からゆらゆらとケムリが立ち昇ってくる。
日本のあけぼのような牧歌的な光景に、昔の人はこうやって風呂に入っていたんだなあと想いを馳せる。
風呂を沸かす、これだけのために費やす時間は、現代ではむしろ贅沢。
湯が沸くまでのひと時を使って、このフィールドができるまでの、そもそもの話を聞いた。

焚き火がつないだ出会いと、この場所の始まり。

ファイヤーボウルを囲みながらの座談会。

まるも:ことの始まりは僕が茅野市でブルーベリーの観光農園をしている時に、怪しげな営業の方が来て…
はじめ会うのを躊躇していたら、3回くらい尋ねてくれて。じゃあ会ってみようとなったら、

第一声が「焚き火しませんか」

一同:あやしい!

白澤:それ、僕ですね(笑)

まるも:「あの~ うち農園なんですよ?」から始まって、白澤さんからファイヤーサイドのアウトドアギアを見せてもらったり、「火育」という考え方を聞いて、とても感銘を受けました。
それで当時から知人だった髙本さんに、すぐにその話をしたんです。

白澤:僕たちは薪ストーブの会社で、普段は家や施設で薪ストーブを導入してもらうのが本業です。でも、広い意味での「火」にはもっといろいろな可能性があると思っていて。例えば、農園に遊びに来た人が焚き火に触れることで、これまで火に興味のなかった人も関心を持つきっかけになるかもしれない。そんなことを考えてました。

白澤 悟(しらさわ さとる): ファイヤーサイドの法人営業担当。 新規事業の営業を強みとし、各地で新たな取り組みを推進している。地域の企業と連携しながら、駒ヶ根を盛り上げていくことを目指す。

「福祉×キャンプ場」という構想

髙本:僕はもともとキャンプに興味があって。これまでずっと福祉事業に関わってきたので、障がいのある方と一緒に運営できるキャンプ場ができたらいいな、という思いがありました。
最初は別の場所で探していたんですが、ちょうどその頃ファイヤーサイドさんの企業向け体験会があって。

白澤:ぜひ来てくださいって連絡したんですよね。

髙本:体験会でプロダクトを見て「めっちゃかっこいいじゃん」って大興奮して。その時一目惚れしたのがこの薪風呂。さっそく入って「これ絶対買う。これ絶対入れる」って言って決めた。それが4年前です。

白澤:その時のこと覚えてますよ。「いつか買います」と力強く言って帰っていった。

髙本忠志(たかもと ただし): 諏訪市圏域で福祉の就労支援に長年携わる。 駒ヶ根で会社を立ち上げ、この場所と出会う。 現在は、障がいのある方を雇用しながら、福祉の視点を取り入れたキャンプ場の代表を務める。

髙本:それから駒ヶ根で場所を探していたら、たまたまここで営業していたカフェがお店をやめるという話を聞いて購入を決めました。
それでこの2人に「一緒にやろうよ」と声をかけて、駒ヶ根に来てもらったんだよね。
そのとき、この場所を買うのにあわせて資金を借りて、「薪風呂も一気に買おう!」って決めたんです。

白澤:焚き火の良さを広げていくには、その価値に共感してくれる人じゃないと難しいと思っていて。
この人たちは、きっと一緒に広げていける人たちなんだろうな、という感覚がありました。

まさか3台も買ってくれるとは思いませんでしたけど(笑)

髙本:どちらかというと僕は、このファイヤーボウルよりもお風呂の方に惚れ込んでいたんです。
でも彼(まるも)が、もうとにかく「焚き火やりたい、焚き火やりたい」って。

まるも:僕はカタログを見た瞬間に「これだ!」って思ってしまって。
「ファイヤーボウルをどうしても欲しいです」ってお願いしました。

髙本: まさかこれを5台も買うことになるとは思いませんでしたけど(笑)

丸荿 雅哉(まるも まさや): 30歳から農業を始める。茅野市で営む農場が就労支援の受け入れ先だったことで髙本氏に出会い、りたまの設立に加わる。管理人として常駐し、ログハウスで猫2匹と暮らす。DIYと農業担当。

白澤:龍磨さんと髙本さんはどこで?

龍磨: もともとは、うちの母と髙本さんが一緒に仕事をしていたんです。
ちょうど僕が前の仕事を辞めたタイミングで、「じゃあ一緒に仕事してみない?」と声をかけてもらって。

髙本: 彼には福祉の分野で入ってもらっています。僕たちはこれまで障害福祉の仕事も一緒にやってきていて、彼はその分野が得意です。僕が駒ヶ根市に拠点を移すときに、ここで障がいのある人たちが働ける場所をつくることを視野に入れていました。このチームで、みんなで役員になってやろうねって。
3人の名前から一文字ずつを取り「りたま」と名付け、2024年7月に「りたまキャンプフォレスト」がオープンしました。

松田 龍磨(まつだ りゅうま) 諏訪市で就労支援に携わる。駒ヶ根に誘われ、りたまの設立に加わる。現在は営業を担当しながら、利用者をまとめる福祉指導員として現場を支えている。

火を「育てる」体験が生むもの

白澤:正直に言うと、薪風呂に関しては僕たちよりも焚いている回数が多いですよね。今日も着火がうまかった。

髙本:いかにお客さん自身が楽しみながら火を熾こせるか、そこを大事にしてます。
白澤さんに「自分で火を育てるのって面白くないですか」と言ってもらったことで、その時間そのものが体験になると気づいて。それで、お客さんがレンタルして自分で湯を沸かすプランをつくりました。

白澤:反応はどうですか?

龍磨: 最初に焚き方をレクチャーしますが、すぐに「あ、もう大丈夫です」って言われるんです(笑)。
「自分でやってみます」って。
途中でフォローには入りますが、火のつけ方だけお伝えすれば、あとは皆さん自由に楽しまれています。早朝4時から火を入れて日の出風呂をした方もいますし、横に本を積み上げて、ひたすら読書を楽しむご夫婦もいました。
反応としては「感動」が強いなというのが自分の印象です。この景色を見ながら入る薪風呂に「最高だね」と言ってくれます。

森に囲まれ、やわらかな光がさし込むキャンプサイト。風が爽やかで、心地よい時間が流れる。

髙本: 「お風呂ってどこでするんですか?」とよく聞かれるんですが、「これ、持ち運べるので好きな場所でできますよ」とお伝えすると、皆さん驚かれます。

白澤: お客さんが来てから設置するというのが、ここならではですよね。 その人のために、その場所をつくる。そういうスタイルはなかなか他にないと思います。

まるも: せっかくなら、お客さんの好きなシチュエーションで楽しんでいただきたいんです。大きなモミジの木があるんですが、秋にはその下で、真っ赤な紅葉を眺めながら長く入っていた方もいました。

髙本:白澤さんのおかげで「火育」というコンセプトがしっかりと言葉になって。お客さんにも説明しやすいですし、すごくいい考え方だなと思っています。

白澤:今ちょっと目が潤んでる。煙のせいかもしれないけど(笑)。

髙本:都会から来られる方にとっては、薪を扱うこと自体が新鮮であり、同時に「危ないものでもある」ということも含めて学びになる。最近のグランピングは、どちらかというとホテル化している印象があって。だからこそ、もっと火そのものを楽しんでもらいたいんです。

利用者の過ごし方に合わせて、その場でレイアウトを組み立てていく。

福祉という視点からキャンプ場の新しい形を描く

白澤:ここは、福祉の現場に関わってきた人たちが立ち上げたキャンプ場で、その成り立ち自体が、この場所の大きな特徴ですね。

龍磨:福祉をはじめた頃からの信念があって。これは高本さんの教えでもあるんですが、

「どんなに仕事ができなくてもいいけど、愛される人になってほしい」と伝えています。

例えば、うちの会社に入って草刈りができるようになりましたよ。会社で草刈りできる人がいたらすごく助かるじゃないですか。ひとつ得意なことがあれば、それが誰かの役に立つ。そうすれば、長く働いていけると思うんです。ここではフィールドの整備、サイトの準備、接客など色々なところで勉強できます。
一人ひとりの可能性を広げて、ここから色々な場所で活躍できる人を育てていけたらと思います。

白澤:その成長に、焚き火の存在は影響している?

龍磨:影響していると思います。火は危ないものでもあるけど、しっかりと関わっていくと温かいものでもあるので。

白澤:ここは来るたびに色々なものが進化してますね。

髙本:スタッフがDIYで作っています。それこそYoutubeを見ながら試行錯誤して。これまで経験してこなかったことに出会って世界が広がったという人も多いです。 こういう積み重ねが、外につながっていくんだと思います。

サウナ周りのととのいスペースの設営を行うスタッフ。

誰もが来られる場所を目指して

髙本:実は、もうひとつやりたいことがあって。 車椅子だったり、障がいを持つ方が気楽に入れるキャンプ場をつくりたいんです。
以前会った脳性麻痺の方がこう言っていました。その方は首から下が動かないんですけれど「僕もバーベキューしたりキャンプしてみたい。でも行ける所がないんです」と。
でも僕たちなら理解もあるし、サポートもできる。しかもこういうミニマムな感じの箱庭なので、周囲の目を気にせず過ごす環境もつくれる。貸切もできますし、だれもが気軽に来られる場所にしたい。

この前のイベントではご近所さんが親子で来てくれて、 身体が不自由な娘さんが手で「楽しい」と表現してくれたんです。「こういう子が遊べる場所が近くにできてよかった」と聞いて、この場所をもっと身近に感じてもらいたいという思いが強くなりました。
ここで働いているのも同じような背景や想いを持つ人たちです。 だからこそ共感も生まれる。そういうキャンプ場を、これからもっと広げていきたい。それが、今の僕の夢ですね。

スタッフに抱っこされる看板猫のジジとキキ。2匹はりたまのマスコットとして活躍中。

お待ちかねの入浴タイム

さて、温度も40度を超え、ちょうどいい湯加減になってきたところで入浴開始。
湯船にゆっくりと身を沈めると、思わず「く〜」と声が漏れる。薪で焚いた湯は、肌触りが柔らかく感じる。
あ〜いい湯だな♨️ しばし湯に身を委ねる静かな時間を過ごす。
水面には木漏れ日が反射し、森の緑が深く映り込む。

薪風呂は自由に楽しむべし

入浴スタイルにも、それぞれの個性が表れる。
白澤氏はおもむろに草むらへ入りドクダミを摘み出した。デトックスハーブ風呂と洒落込むようだ。
龍磨さんはスマホでお気に入りの音楽を聴いて、湯と音に身を委ねている。
髙本さんはマンガ!アイス!ビール!「お風呂でやっちゃダメ」を全部やっちゃう欲張り派。
まるもさんに至っては何もしない。「無」が気持ちいいらしい。禅の空気さえ醸している。
四者四様に楽しむ。薪風呂に決まりはない。自由でいい。

野草が豊富な森の中ならではの楽しみ方。ドクダミと朴葉を浮かべたハーブ風呂。
好きな音楽を聴きながらリラックス。
お風呂でしたら怒られることを全部。
「無」

火とともに過ごす時間の豊かさ

入浴後は、ファイヤーボウルを囲んで食事のひと時。ひとっ風呂浴びたあとのご飯は、やはり格別だ。
お腹が満たされたら、りたまにとってもうひとつの大切な時間、サウナへ。 サウナ小屋とテントサウナ、ここではどちらも楽しめる。
焚き火を囲み、サウナで汗をかき、薪風呂に浸かる。温浴によって、人と人との距離が近づく瞬間が生まれる場所。火と共に過ごす時間の豊かさが、ここにはある。

(了)